「半年の拘留中に屈服しなかった」バンダジェフスキー博士

今、注目されている『人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響
―チェルノブイリの教訓― セシウム137による内臓の病変と対策― 』

筆者の元ゴメリ医大学長、バンダジェフスキー博士
に関する情報

京都大学原子炉実験所の今中哲二さんの2000年の報告から

今年の1月、フランスの物理学者で、「チェルノブイリの惨事」(桜井醇児訳、緑風出版、1994)のベラ・ベルベオークさんよりメールが届き、いくつかの手紙が添付されていました。ゴメリ医科大学の学長であるBandazhevsky教授が昨年7月いわれなく逮捕されたが、国際的救援運動のおかげもあって暮れに釈放された。しかし、いまだにミンスクから離れることを禁じられている、という内容でした。
翻訳して紹介しておきます。
2000年3月8日
今中哲二

親愛なる皆様:
 
国際キャンペーン「Bandazhevskyを自由に」と国際アムネスティの迅速な行動によって、(1999年)12月27日午後4時、Bandazhevsky教授は釈放されました。身柄引き取りに出向いたNesterenko教授によると、彼は20kgもやせ10歳以上歳をとったように見えた、とのことです。しかし、彼はしっかりしており、6カ月間の拘留中に屈服しなかったことを喜んでおりました。刑務所では、手と足に錠がかけられていたそうです。

 彼は、いまだ何らかの行為で検察から告発されているわけではありませんが、彼の家はゴメリにあるのに、ミンスクから離れることを禁じられています。彼の裁判は5~6カ月は始まらないでしょうし、わけの分からない拘束理由も消えるかも知れませんが、誰にもわかりません。また、ゴメリ大学へ入学するため彼にワイロを送ったことを学生が認めた、というウワサも流されています。彼の健康状態は悪く、体力を回復する必要があります。ここに、彼からの手紙を2つ紹介します。彼は、急速に回復し元気を取り戻しつつあります。

 彼を釈放させるため助けて頂いた皆様、チェルノブイリ被災に関する重要な証人の命を支えて頂いた皆様に感謝いたします。

Michel Fernex教授 PSR/IPPNW スイス

Solange Fernex WILPF フランス

<私の釈放のために助力してくれたすべての人たちへの手紙>
2000年1月2日
親愛なる皆様;

 困難に際し、私と私の家族に示してもらった助力と支持に対し心からの感謝を申し上げます。いつの日か、直接お会いして御礼を述べることができるよう望んでおります。Nesterenko教授はずっと、私を心配する科学者や市民からの手紙をすべて知らせてくれていました。心からすべての方々に御礼申し上げます。
 皆様の介入によって1999年12月27日に私は釈放されましたが、そのかわり、ミンスクから出ることが禁じられています。

 Nesterenko教授とともに、私はいま、これからの研究プラン作りをはじめており、じきに皆様にお知らせします。実際のところ、私はゴメリ大学で働くことを妨げられており、私の人生は大きく変わらざるを得ませんでした。私の最新の著書が、「体内摂取された放射能に関する病理学」というタイトルで英文で出版されます。チェルノブイリ事故の健康影響についての仕事を継続する所存です。

 感謝と尊敬を込めて

Y.I.Bandazhevsky

(急いで翻訳したので、不十分のところ悪しからず。S.Fernex)

<一般市民と科学者へあてたBandazhevsky教授からの手紙>
2000年1月13日
親愛なる皆様:
 私に起きた悲劇的事件の間に、これまでそして現在の、私と私の家族に対するみなさんからの支持に感謝申し上げます。
 真実は明らかになる、と確信しています。ここで述べておきたいのは、この10年間私は、1986年に起きたチェルノブイリ事故の健康影響と人体組織内に摂取された放射性物質の影響研究に没頭してきたことです。それに関連して、私の指導のもとで設立されたゴメリ医科大学では、放射能汚染地域住民の大規模な健康調査、汚染食料を用いた動物飼育実験、といった広範な科学的研究に取り組んできました。

 こうした研究は、放射能が体内に取り込まれたときの現象と病理学的プロセスを解明するとともに、放射能からの防護に関する基準を設定することに寄与しました。ゴメリ医科大学では、私の指導のもと、30もの博士論文が作成され、多数の科学的文献が発表されました(私の分だけで200篇に及んでいます)。研究には国からの資金を受けていません。

 我々の研究成果は定期的に、新聞、ラジオ、テレビといったメディアや国会に報告してきました。残念ながら、私の逮捕と収監は、ゴメリ医科大学の研究活動を妨害するための口実となってしまいました。もともときわめて困難な状況下で設立された医科大学は、、破壊されてしまいました。

 汚染地域住民の健康状態は現在、破局的な状態です。ゴメリ州の1999年の死亡率は、出生率の1.6倍でした。我々の国家は存亡の危機にあります。ベラルーシならびに国外の人々にとって、病理学的プロセスを解明や放射線防護方法の確立といった、体内放射能の健康影響問題の研究がきわめて重要であると私は確信しております。そこで私は、こうした問題に興味をもつ市民社会と科学者のすべての構成員に対し、我々の努力を連帯させるよう要請と提案をするものであります。

 こうした行動のひとつは、チェルノブイリ原発事故によって汚染された地域に、病理学と放射線防護の研究に関する国際独立科学センターを設立することでしょう。そこでの研究により、実際の人体への放射線影響に関する知見が得られるでしょう。このセンターの活動は、資金源をふくめ、政府組織から独立したものでなければなりません。世界中のさまざまな国の科学者がセンターにやって来て、そこで得られた知見はすべての人々に明らかにされるでしょう。

 もしあなた方が私のこの提案に興味を抱かれるなら、資金の問題も含め、あなた方の意見と私の意見を議論し問題解決へ向けてともに取り組みましょう。

 私を助けるため、活動して下さったり現在も活動されているすべての方々に改めて感謝致します。

 敬具

Y.I. Bandazhevsky

c/o Professor Nesterenko

Institute BELRAD, Minsk, Belarus

neste@hmti.ac.by

2001年5月23日 「VremyaNovostyej」

低線量の事件
放射線の危険性について訴えるゴメリの研究者が、収賄容疑で訴えられている

ゴメリで地元の医科大学のユーリー・バンダジェフスキー学長に対する公判が大詰めを迎えている。彼の容疑は、大学の入学志願者に賄賂を要求する犯罪グループを組織したというものだ。検察当局は、バンダジェフスキー被告の9年の自由剥奪を求刑している。一方、弁護側は、この事件は政治的な性格をもったものだと主張している。弁護側によれば、ベラルーシの当局は、低線量の放射線が人体に与える影響が著しく過小評価されていることを立証した、バンダジェフスキー被告の研究結果が公表されるのを阻止しようとしたのだという。それは、実際のところ、低レベルの放射能も人体に蓄積され、その影響で腎臓や肝臓、それに心臓や肺が冒されているというものだ。

しかし、当局がとる公式見解によれば、危険なのは、あくまで高線量の放射線だけだということになっていいる。そうした立場をもとに、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は1999年、チェルノブイリ問題に対する新しい取り組みを表した。ルカシェンコ大統領によれば、放射能汚染により国内農地の4分の1が放置されていることは、認めがたい無駄だという。そして、1980年代末から90年代はじめにかけて人々が避難した汚染地への、新たな入植が、新たな国政の基本となった。チェルノブイリのゾーンでは、再び学校や病院、住宅が建設され、ガス供給や水道システムが整備されている。

バンダジェフスキー事件は、実際、そうした公式見解に反する一連の論文が発表されたあとに表沙汰となった。医科大学の学長である彼に、賄賂を受け取った容疑かかけられたのだ。ただ、最大かつ現時点においても唯一の証人は、証言を拒否し、ゴメリ医科大学内には、学生らに前学長の賄賂要求について証言するよう求めるための電話窓口が設けられている。しかし、弁護側は、いずれにせよユーリー・バンダジェフスキー被告の容疑を立証する直接的な証拠は存在しないと見ている。一方、公判の開始前に「核戦争に反対する医師団」は、彼に特別賞を授与し、また欧州会議も彼に「自由のパスポート」を与えている。

ユーリー・アンドレエフ 、ミンスク
(平野進一郎 訳)

   *     *     *

子どもを放射能から守る会おきなわ■から転載
翻訳家の竹之内真理さんより、内部被ばくに関しての研究結果が掲載されている非常に重要な本の案内をいただきました。

・・・

最近、セシウムの毒性に関する大変重要な冊子が、茨城大学名誉教授久保田護氏により翻訳、自費出版されました。元ゴメリ医大学長、バンダジェフスキー博士の『人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響―チェルノブイリの教訓セシウム137による内臓の病変と対策―』です。(一冊1000円。注文先:電話・FAX0294-36-2104)

食物中のセシウム摂取による内部被曝の研究がほとんどない中、バンダジェフスキー博士は、大学病院で死亡した患者を解剖し、心臓、腎臓、肝臓などに蓄積したセシウム137の量と臓器の細胞組織の変化との環境を調べ、体内のセシウム137による被曝は低線量でも危険との結論に達しました。

以下に要点をまとめます。

【体全体への影響】

*セシウム137の体内における慢性被曝により、細胞の発育と活力プロセスがゆがめられ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる。

*大抵いくつかの器官が同時に放射線の毒作用を受け、代謝機能不全を引き起こす。

*セシウムの濃度に応じて、活力機構の破壊、たんぱく質の破壊が導かれ、組織発育が阻害される。

*セシウムの影響による体の病理変化は、合併症状を示し、長寿命体内放射能症候群(SLIR)といわれる。SLIRは、セシウムが体内に入ったときに現れ、その程度は入った量と時間とに相関する。

*SLIRは、血管、内分泌、免疫、生殖、消化、排尿、胆汁の系における組織的機能変化で明らかになっている。

*SLIRを引き起こすセシウムの量は、年齢、性別、系の機能の状態に依存するが、体内放射能レベルが50Bq/kg以上の子供は機関や系にかなりの病理変化を持っていた。心筋における代謝不調は20Bq/kgで記録された。

*汚染地帯、非汚染地帯の双方で、わずかな量の体内セシウムであっても、心臓、肝臓、腎臓をはじめとする生命維持に必要な器官への毒性効果が見られる。

【心臓への影響】

*生命維持に必要な多くの系で乱れが生じるが、その最初は心臓血管系である。心筋のように、細胞増殖が無視できるかまったくない器官や組織は、代謝プロセスや膜細胞組織に大きな影響が生じるため、最大の損傷を受ける。

*ミンスクの子供は20Bq/kg以上のセシウム137濃度を持ち、85%が心電図に病理変化を記録している。

*ミンスクの子供で、まれに体内放射能が認められない場合もあるが、その25%に心電図変化がある。このように濃度が低くても、心筋に重大な代謝変化を起こすのに十分である。

【血管系への影響】

*血管系が侵され、高血圧が幼児期からも見られることがある。

*セシウムは血管壁の抗血栓活性を減退させる。

*血管系の病理学的変化は、脳、心臓、腎臓、その他の機関の細胞の破壊を導く。

*体内のセシウム濃度の高い子供の間で、白血球の数の減少が見られた。最初に減ったのがバチルス核好中球と単球であり、同時にリンパ球の数が増大した。

*動物実験では、絶対的赤血球数と相対的核好中白血球の数の減少が起きた。

*40キュリー/km2以上の地域から汚染の少ない地域に移住した子供の骨髄球の生理状態が回復したことは注目に値する。

【腎臓への影響】

*セシウムは腎臓機能を破壊し、他の器官への毒作用や動脈高血圧をもたらす。ゴメリにおける突然死の89%が腎臓破壊を伴っている。

*腎臓もセシウムの影響を強く受けるが、放射線による腎臓の症状は特徴がある。また病気の進行が早く、悪性の動脈高血圧がしばしば急速に進む。2-3年すると、腎臓の損傷は慢性腎機能不全、脳と心臓との合併症、ハイパーニトロゲンミアを進展させる。

【肝臓への影響】

*肝臓においては、胎児肝臓病や肝硬変のような厳しい病理学的プロセスが導かれる。

*免疫系の損傷により、汚染地ではウィルス性肝炎が増大し、肝臓の機能不全と肝臓ガンの原因となっている。

【甲状腺への影響】

*セシウムは、甲状腺異常にヨウ素との相乗関係を持って寄与し、自己免疫甲状腺炎や甲状腺ガンの原因となる。

【母体と胎児への影響】

*セシウムは女性の生殖系の内分泌系機能の乱れをもたらし、不妊の重要因子となりえる。また、妊婦と胎児両方でホルモンの不調の原因となる。

*月経サイクルの不調、子宮筋腫、性器の炎症も見られる。

*母乳を通じ、母体は汚染が低くなるが、子供にセシウム汚染は移行する。多くの系がこの時期に作られるので、子供の体に悪影響を与える。

*1998年のゴメリ州での死亡率は14%に達したが、出生率は9%(発育不全と先天的障害者含む)だった。妊娠初期における胎児の死亡率がかなり高かった。

*セシウムは胎児の肝臓病を引き起こし、その場合胎児は肝臓に限らず、前進の代謝の乱れが生じる。

【免疫系への影響】

*免疫不全により、結核が増加している。

*免疫系の障害が、体内放射能に起因することは、中性白血球の食作用能力の減退で証明されている。

【神経系への影響】

*神経系は体内放射能に真っ先に反応する。脳の各部位、特に大脳半球に影響を及ぼし、さまざまな発育不良に反映される。

*生命維持に不可欠なアミンや神経に作用するアミノ酸の内部被曝による変動は外部被曝と比べ、顕著である。

*セシウム137の体内量と自律神経系の機能障害は相関する。

*動物実験で発情期のメスに神経反応の組織障害が起こる。

*ウクライナの学者は、大脳の差半球で辺縁系小胞体組織の異常があると述べている。

【消化器系】

*セシウムが体内に長期間入っている子供に、慢性胃腸病を引き起こす。

【視覚器官】

*ベトカとスベチロビッチ(15―40キュリー/km2)に住んでいる子供では、子供の視覚器官の変化はそれぞれ93.4%と94.6%だった。

*白内障発生率とセシウム137の量に明白な正比例関係が見られた。

【相乗作用】

*セシウムの影響は、ニコチン、アルコール、ハイポダイナミアと相乗して憎悪される。

【男女差】

*セシウムは男性により多く取り込まれやすく、女性より男性により強い影響が出ており、より多くのガン、心臓血管不調、寿命の低下が見られる。

【疫学調査】

*1976年と1995年のベラルーシの比較。悪性の腎臓腫瘍が男4倍以上、女2.8倍以上。悪性膀胱腫瘍が男2倍以上、女1.9倍以上。悪性甲状線腫瘍が男3.4倍以上 女5.6倍以上。悪性結腸腫瘍は男女とも2.1倍以上。

*ゴメリ州では腎臓ガンは男5倍、女3.76倍。甲状線ガンは男5倍、女10倍となった。

【セシウム排出製剤】

*セシウムの排出に、カリエイ土を加えたペクチン製剤のペクトパルは最も将来性がある製剤のひとつだが、セシウムが人体に入るのを防ぐほうが、それを排出したり乱れた代謝を正常にするより容易なことを心に留めるべきである。

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