「子どもには年1ミリシーベルト適用を」山内神戸大教授

「子どもには年1ミリシーベルト適用を」山内神戸大教授
(神戸新聞 2011/05/24)

「震災の復興を担う若い世代の健康を第一に考えなければ」と話す山内知也教授=神戸市東灘区深江南町

 福島第1原発事故で放射線が検出された福島県内の小中学校について、国が屋外活動制限の可否を判断する目安とした年間の積算放射線量20ミリシーベルト。「子どもが浴びる線量としては高すぎる」「放射線の専門家でもそこまでの被ばくは少ない」などの研究者の懸念に対し、国は暫定措置であることを理由に譲らない構えだ。「子どもには年1ミリシーベルトを適用すべき」と4度にわたって国に申し入れている神戸大大学院海事科学研究科の山内知也教授(放射線計測学)に聞いた。

(黒川裕生)

 年20ミリシーベルトは国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する一般人の限度の20倍で、事故復旧時の「現存被ばく」の参考レベル上限値だ。

 ICRPは3月21日に公表した見解で「長期的な目標としての参考レベルは、年1ミリシーベルトに低減させることを視野に1~20ミリシーベルトの範囲から選択することを勧告する」としている。1~20ミリシーベルトの範囲なら、放射線感受性が大人より高い子どもには、厳しい基準である1ミリシーベルトを選択すべきだ。

 1ミリシーベルトが基準の場合、福島県内の大半の学校が対象になる

 「学校の休校や疎開が必要になり、子どもが受けるストレスが大きい」と主張する専門家がいるが、この状況下では生命や健康を守ることを優先すべきだ。避難後の生活への不安からとどまっている人も多いだろう。「避難する人には補償する」と国がきちんと示す必要がある。補償の仕組みを明確にした上で、子育て世代を早急に県外に避難させた方がいい。

 現在の世界の放射線防護対策は、広島、長崎の被爆者の健康調査に基づく。

 例えば、100から200ミリシーベルト程度の比較的低線量の放射線を一度に浴びた場合、人体にどんな影響があるのか。「よく分からない」が研究者の共通認識だった。しかし米科学アカデミーが2005年の報告書で「たとえ低線量であっても安全といえない」と指摘している。それまでの概念を覆す内容だが、日本ではこのリポートはほとんど顧みられていない。

 旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の影響を調べるため、スウェーデンの学者が同国北部の大規模な疫学調査をした。

 114万人を対象にした8年にわたる調査で、セシウム137の土壌汚染とがん発症率の間に関連がうかがえた。1平方メートル当たり100キロベクレルの汚染地帯では、がんの発症率が11%も高かった

 国が5月6日に発表した福島県の汚染マップでは、1平方メートル当たり3000~1万4700キロベクレルの汚染地帯が帯状に広がり、原発から60~80キロ圏でもスウェーデン北部を上回る高濃度の汚染が確認できる。現行の避難計画が適切だとは思えない。あらためて基準や計画の見直しを求めたい。

【セシウム137要注意 半減期は30年】

 山内教授によると、当初被ばく線量が懸念された放射性物質のうち、ヨウ素131は半減期が8日と短いため、2カ月が経過した今、注意すべきは半減期が30年と長いセシウム137になっている。

 校庭の土に付着したセシウム137から受ける1年目の影響が年20ミリシーベルトと仮定すると、積算で小学1年生は小学卒業までに113ミリシーベルト、中学卒業までに164ミリシーベルトを受けることになるという。164ミリシーベルトは、胸部CT検査ならば10数回分に相当する。

 全体の放射線量が減少傾向にある中、国は「今の値を超えない限り、健康被害はない」として除染を見送っており、モニタリング調査や屋外活動の時間制限を重視する。

 山内教授は子どもの健康の観点から「放射線を教える者として、感受性の高い子どもにこのレベルの線量の被ばくを認めるわけにはいかない」と批判している。

(2011/05/24 10:15)

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