2006/10/30

あるフェアトレードからの学び

スロービジネススクール(SBS)の合宿、脱原発イベントなどの旅から
福岡に戻った中村隆市です。
http://www.slowbusiness.org/mediagallery/album.php?aid=12&sort=0&page=1
http://www.slowbusiness.org/article.php?story=20060921002131869
http://www.sloth.gr.jp/GNH-event20061016.htm
今日は、皆さんにお伝えしたい大事な話があります。(長文です)
それは、あるフェアトレードの現在進行形の実例であり、
「フェアトレードで生産者とつながるということは、どういうことか」を
学ぶ、生きた教材でもあります。また、これからSBSにとって重要な
価値観となる話も含まれています。


今、ウェブショップで、インタグコーヒーが紹介されています。
そこには、こんなことが書かれています。
「生産国は南米、ペルーの北に位置するエクアドルです。アグロフォレス
トリー(森林農業)と呼ばれる方法で育てられるこのコーヒーの生産者は、
開発による破壊から自然を守ることを目的に結成された、コタカチ郡の
インタグ地区有機コーヒー生産者協会のメンバーです。」
この協会をつくった中心人物であるカルロス・ソリージャさんの自宅が
鉱山開発派らしき者たちによって「襲撃」されたという報が届きました。
その詳しい内容をお知らせする前に、どのようにしてフェアトレードが
始まったのか、ということを振り返っておきましょう。
1989年11月、福岡で開催した「国際有機コーヒーフォーラム」に私は、
エクアドルからインタグコーヒー生産者協会代表とアウキ知事を招待しました。
彼らは当時、日本のODA(政府開発援助)と日本企業による「鉱山開発」と
いう名の自然破壊と闘っていて、「開発をくい止めるためには、日本の多くの
市民が自然破壊をやめるように意思表示すること。そして、貧困層が90%に
近いインタグでは、自然と共存する形での経済的な発展を住民に提示する必要
があるので、有機農業やエコツアーを広めるために、みなさんの協力をお願い
したい」と会議で訴えました。
この会議に、エクアドルのゲストたちと同行してきた見知らぬ2人が参加して
いました。それが、文化人類学者の辻信一さんと環境運動家のアンニャ・ライト
でした。(この2人にビジネスマンである私を加えた3人が翌年「学問と運動と
ビジネスの融合」を目指すナマケモノ倶楽部を設立することになります。)
初めての出会いから3ヵ月後、辻さんとアンニャが企画するエクアドルツアーに
参加した私は、インタグコーヒーの産地を訪問し、世界的にも貴重な熱帯雲霧林
を歩き、30人程の生産者と語り合いました。「鉱山開発は、一時的には住民に
お金をもたらすだろう。しかし、森林を伐採して、地下資源を掘ってしまったら
破壊された自然と重金属で汚染され土地しか残らない。ここで生き続けることが
できなくなる。私たちは、この美しい自然を子どもたちに残したいんだ」という
熱い想いに触れることができました。
彼らは、鉱山開発から森を守るために、森林農法で栽培する有機コーヒーを
適正な価格で継続して買ってくれる相手を探し求めていました。その気持ちは
よくわかりました。しかし、生産者協会をつくって日が浅く、組織的な運営が
未熟で、資金もなく輸出経験もない彼らとフェアトレードを開始することは、
様々な困難を引き受けることであり、それに加えて、このフェアトレードは
鉱山開発勢力との「闘い」に参加することでもありました。
もし、誰かに相談したら、こんなふうにアドバイスされたでしょう。
「やりたい気持ちはわかるけど、今、始めるのは危険だ。ウィンドファームが
つぶれちゃったら元も子もないないから、もう少し生産者協会の体制が整って、
鉱山開発問題が落ち着いてからフェアトレードを始めた方がいいよ」と。
さまざまなリスクを慎重に検討し、安全な状態になってからフェアトレードを
開始する。それが、従業員の生活に責任を負う経営者がとるべき態度なのかも
しれません。しかし、インタグの自然を守ろうとする人たちには、今すぐにも
提携する相手が必要でした。
「皆さんがつくった有機コーヒーは、すべて買い取ります」という私の言葉を
生産者の側で聞いた辻さんは「いきなり取引の話が成立してうれしかった反面、
中村さん、そんなことをもう決めちゃって大丈夫?」と思ったそうです。
「大変なことになるかもしれないけど、なんとかなる」という直感が私には
ありました。
1970年代後半から「生産者」と「消費者」のつながりを強める提携運動や
フェアトレードを続ける中で、とても重要なあることに気づきました。それは
「モノやカネとの付き合いではなく、人と人との付き合いができるかどうか」
そして「目先の利益や個人的な利益で動かず、皆の幸せを考えて行動する人が
グループの中心にいるかどうか」それが、フェアトレードを成功させる重要な
要素だと気づいたのです。
インタグには、それを絵に描いたような人がいました。カルロス・ソリージャ
その人です。森の中に家族と暮らし、私欲がなく、自然を愛し、それを守る
ために淡々と活動する彼がいたからこそ、私は、インタグコーヒー生産者協会
との提携をその場で決断することができました。
このツアーに参加して、カルロスと出会った和田彩子さんや渡邉由里佳さん
(当時大学生)は、現在エクアドル駐在員やエコツーリズム担当理事として、
ナマケモノ倶楽部で活躍しています。(2人はSBS学生でもある)
先月下旬、エクアドルを訪問していた私は、その和田さんと、横山理絵さん
と共にカルロス宅を訪問し、彼と愛妻サンディ、15歳の息子マルティンと
たのしい食卓を囲みました。
そのとき、カルロスファミリーとこんな話をしました。
「豊かさのモノサシ」をGNP(国民総生産)などの「モノ・カネ重視」から
GNH(国民総幸福)のような「ココロ重視」に転換することができれば、
未来世代のいのちや自然環境がもっと大事にされるだろう。
「いま日本では、核燃料の再処理工場が試験的に稼動し始めて、膨大な量の
放射能を大気中や海中に放出し始めている。自然を汚染し、子孫の健康や
生命を脅かす大問題にもかかわらず、マスメディアはその危険性をほとんど
報道しない。電力会社や原発をつくっている三菱、東芝、日立などの大企業
スポンサーとの関係悪化を恐れているのだろう。そして、日本人の多くは
忙しくて、この問題をじっくり考えることができない。
日本人が忙しい原因にもGNPやGDPの「量を重視する考え方」がある。
一つの経済指標に過ぎなかったものが、いつのまにか政治、経済、社会を
方向付けるほどに大きな力を持ってしまっている。
そもそも経済というものは、人間を幸せにするためにあるはずなのに
GNP、GDPというモノサシは、人々を不幸にしているのではないか。
「何が私たちに、本当の豊かさをもたらしてくれるのか」
「何が私たちに、本当の幸せをもたらしてしてくれるのか」
これからはGNP、GDPに替わる<本当の豊かさのモノサシ>のヒントに
なるGNHという考え方を広めていきたい」といった話をしました。
そして、カルロスファミリーに「ハッピーだと感じるときやハッピーだと
思うこと」を聞いてみました。以下が、彼らの答えです。
マルティン(15歳)
1、家族がいること
2、いっぱい本を読むこと
3、かっこいい犬を持つこと
4、いろんな人が家に遊びに来てくれること
5、いっぱい虫がいる所に住めること
6、旅行すること
7、世界中のすべての人が、ここみたいに自分を受け入れてくれる
  コミュニティを持つこと。
8、過去に犯した間違いを未来に繰り返さないこと
サンディ
1、本当に幸せなのは、自分のことだけでなく他者のことを考え実行すること
2、自分の村や国だけでなく世界のことを考えるようになること
3、毎日、いろいろな(多様な)時間を持つこと
4、手づくりのものをつくること
5、畑仕事をすること
6、散歩をすること、散歩する森や山道があること
7、自分で食べ物をつくること
カルロス
1、好きなことをする時間があること
2、健全でつよいコミュニティの強いつながり
3、きれいな環境
4、森があって、鳥がいる所に住めること
5、家族といい関係を持つこと
6、インタグが、鉱山会社が入る前の状態に戻ること
7、人間と自然が親しくなること
ソリージャ.jpg
(写真:カルロスと息子)
この話をしているとき、カルロスファミリーにはハッピーな笑顔が
ありました。それから3週間後に鉱山開発派らしき者たちによって
カルロス・ソリージャさんの自宅が「襲撃」されました。
その詳しいリポートの翻訳が、和田彩子さんから届きましたので
皆さん、読んでみて下さい。そして、あなたにできることを実行して
いただければ、うれしいです。ナマケモノ倶楽部からの呼びかけも
添付しておきます。私も自分にできることを実行していきます。
引き続き、関連情報を流していくことになると思いますので、
関心を持っていただければ幸いです。
弁護士費用などの寄付をされたい方は、以下の口座に
「カルロスさんへの寄付」と書いて振り込んで下さい。
まとめてエクアドルに送金します。
<振込先:郵便口座>
加入者名:ワールドエコロジーネットワーク
口座記号:01750-7
口座番号:93698
***(和田彩子さんより)***
ナマケモノ倶楽部のみなさん、とんでもないことが起こりました。
回数は多くないですが、たびたびエクアドルから鉱山開発の情報をお伝えして
いますが、その鉱山開発問題に正面から向かっているカルロス・ソリージャ氏の
自宅が、鉱山開発の者と思われる男たち10名ほどに襲われました。
 ナマケモノ倶楽部のスローツアーに参加してくださっている方々は覚えてい
らっしゃる方も多いのではないでしょうか。カルロス・ソリージャ氏の自宅は、
インタグの森の中にあります。車道から歩いて50分ほど行ったところの平地にそ
の小さな家は建っています。所有地は、500ヘクタール。その大部分は、原生林
で、彼はそこを保護区とし、その森を守っています。居住地である2ヘクタール
ほどの土地でカルロスは、コーヒー、パイナップル、豆、ねぎ、フルーツ類など
を育てて、かなり高い率の自給自足の暮らしをしています。暇があれば、森を歩
き、鳥を見るのが楽しみだといつも言っています。
 鉱山開発問題対象地であるフニン村からは、車で5時間以上はなれた場所に暮
らしていますが、この10年間、日本政府と企業が、フニンで鉱山開発をはじめて
からずっとそれらと戦ってきました。そしてその結果、このような脅迫に遭って
います。暴力でどうにかしようとするなんて、とても許せないことです。脅すこ
とでどうにかなると思っているその短絡的な思考に腸が煮えくり返る思いです。
 以下その報告の訳文です。(訳文の後にも続きがあります。)
***
10月17日
今朝、6時半、自称警察と名乗る、ピストルと機関銃を手にし、完全武装した10
名ほどの男たちがカルロス・ソリージャ家に到着した。ある者は制服を着用し、
2名はスキー・マスクをかぶってきた。その20分後、カヤンベ市から検察官を自
称する別の人間が堅く捜索令状を持ってやってきた。彼らは、ソリージャの家
と、ソリージャの元で何年も働いており、丘の上に住んでいるロベルト・カスト
ロの家を捜索した。ロベルトは、身分証明書の提示を要求した。しかしそれは叶
えられなかった。カルロスはそのとき自宅におらず、彼の行方は現在わかってい
ない。カルロスの妻のサンディとその息子のマーティンは、家におり、その警察
の男たちが自宅に押し入り、捜索するのを見ていた。彼らは、カルロスのベッド
ルームと書斎をめちゃくちゃにした。マーティンによると、その中の一人は特に
凶暴で、マーティン、サンディ、そしてロベルトにわめいたり、押したりしてい
た。リーダーらしき男は、1時間したところで、ここには見つけるべきものはな
いと宣言し、どうやら他に行くところがあったらしく、時間がないのでそちらに
行くよう、仲間に伝えた。ちょうどその時、その一番凶暴な男がバッグを手に外
に出てきて、その中にあった麻薬を指し、それを居間で、また銃をマーティンの
部屋で見つけたと主張した。そこで、この怪しい警察官たちは去っていった。
その他の目撃者たちは、その朝、サンタ・ロサ(注:カルロスが住むコミュニ
ティー)にやってきた警察官たちの多数の車のどれひとつにも、警察のしるしが
ついたものはなく、またすべての車にはナンバープレートがなく、そして一台の
赤い車は鉱山開発会社の所有の車であるとかいてあったと証言した。また、彼ら
は、その2日前ほど、アセンダント(注鉱山開発会社)の従業員がサンタ・ロサ
でふらふらしていたと証言した。
偶然にも(?)、昨日、イバラの裁判所では、昨年12月10日に起こったアセンダ
ント・コパー・コーポレーションのインタグ事務所の焼き討ちで、訴えられてい
たコミュニティーの住民に対しての告訴を棄却した。しかし、インタグの生態系
の防御と保全(DECOIN)の会長のシルビア・キルンバンゴは、鉱山開発会社は、
この判決に対して、上訴するであろうと語った。
現在、私たちは国際書簡キャンペーンを開始しなければなりません。あなたに、
カルロス・ソリージャという一個人に対して、脅迫を目的とする誤った告訴に対
する怒りを、アセンダントの社長のゲリー・デイビスに書くよう、お願いしま
す。ブリティッシュ・コロンビア・セキュリティー・エクスチェンジにも書いて
ください。あなたの手紙のコピーをDECOINの会長のシルビア・キルンバンゴとイ
ンタグニュースペーパーに送って下さい。(あて先は下記にあります。)そして
ぜひ、関心のある人や団体に送ってください。それから、いつもですが、弁護士
費用などにかかる経費への寄付も受け付けています。
状況がよりはっきりしてきたら、私たちはどのようなアクションが取れるのか、
また寄付をどのように送るのか詳細を報告します。
敬具、Sylvia M. Seger
いくつかの連絡先:
Gary E. Davis
President and CEO
ASCENDANT COPPER CORPORATION
10920 West Alameda Avenue, Suite 201
Lakewood, CO 80226
Tel: (303) 824-0271 Fax: (303) 297-0538
www.ascendantcopper.com
info@ascendantcopper.com
British Columbia Securities Commission
701 West Georgia Street
P.O. Box 10142, Pacific Centre
Vancouver, B.C. V7Y 1L2
Canada
***
 現在、カルロス一家はキトにいて、無事だと、この訳文の中に出てきたロベル
トさんは電話でおっしゃっていました。ただ私はまだカルロスの無事を確認して
いません。ロベルトさん一家は無事で安心しましたが、彼は、鉱山開発反対運動
をしている人はみんな気をつけなければならないと言っていました。(後略)
**************
ナマケモノ会員のみなさま、こんにちは、ナマクラ事務局の馬場です。
10月17日にエクアドルで起きたカルロス・ソリージャ氏
個人への脅迫・暴力行為に関して、エクアドル大使館あてに
送付する個人レターの雛形を作りました。
ぜひ遠く離れた日本でも多くの人がこの事件に関心をもち
憂慮していることをメール、ファクスにてエクアドル大使に
伝えていただければ幸いです。
みなさまのサポートをお願いします。
適宜内容は変えていただいてかまいません。
エクアドル大使館
ecujapon@alto.ocn.ne.jp
FAX (03) 3499-4400
〒106-0031東京都港区西麻布4-12-24興和38ビル806号室
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エクアドル大使館
特命全権大使
アドルフォ・アルバレス・ビジャゴメス 閣下
私たちは、エクアドル・インバブラ州・コタカチ郡・サンタ・ロサ地区にて10月
17日早朝に起きたカルロス・ソリージャ氏宅への強制家宅捜索と、それに伴う暴
力行為(資料添付*)についての知らせに接し、事態を深く憂慮するものです。
*英語・スペイン語リリース:http://www.decoin.org/
*日本語訳:http://www.sloth.gr.jp/ecua/junin_061017.htm
 カルロス・ソリージャ氏はインタグ地区における環境運動のリーダーとして、
エクアドルをはじめ国際的に広く尊敬を集める人物です。日本では環境NGOナ
マケモノ倶楽部がソリージャ氏とのパートナーシップの下、これまでエクアドル
におけるエコツーリズム事業、環境保全事業、コミュニティビジネス事業、フェ
アトレード事業を展開し、日本・エクアドル両国の国際協力や友好関係の一端を
担ってきたことが国内外で高く評価されています。
 今回の由々しき事件に対して、貴国の公的機関が今後どのような対応をされる
のか、注意深く見守っていく所存です。また、事実関係についての調査、情報の
公開、及び犯罪的な行為に対する厳正な対処を貴国の関係諸機関に強く求めるも
のであります。対応如何によっては、貴国の信用を大きく揺るがす国際的な問題
にもなりうるということを、ぜひ閣下からも貴国の関係者の皆様にご進言いただ
ければ幸いです。
2006年10月xx日
名前
住所
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