会津の汚染数値が高い市町村で、子どもの甲状腺ガンが発症

先月下旬、福島県の子どもの甲状腺がん57人+がんの疑い合計が100人を超えたことが発表されました。(手術をした54人の8割超の45人は腫瘍の大きさが10ミリ超かリンパ節や他の臓器への転移などがあり、2人が肺に転移していた。)しかし、「県民健康調査」検討委の星北斗座長は、「甲状腺がんの発症割合に地域差がないことから、現時点で原発事故との因果関係は考えにくい」との従来通りの見解を示しました。

「甲状腺がんの発症割合に地域差がない」という意味は、汚染数値が低い会津地方の発症割合があまり低くない―という意味ですが、本当に地域差がないと言えるのか検証してみました。


朝日新聞:地域別、子どもの甲状腺がん発生率
 (画像は、朝日新聞から)

この地図だけを見ると、甲状腺がんの発症割合に地域差が小さいようにも見えますが、2014年8月24日の県民健康調査・検討委員会に出された甲状腺検査結果の資料をしっかり読むと、いろんなことが見えてきます。

福島原発事故発生時に18歳以下だった約37万人を対象に実施している甲状腺検査は、原発事故が起きた2011年(平成23年度)から検査が始まり、3年間の検査で得られた結果を表にまとめています。

2014.6.30現在 一次検査データと結節・のう胞の人数・割合

この福島県の表の中で、特に重要なことを以下に抜き出してみました。

罫線入り表 甲状腺 結節のう胞 H26年6月30日現在

この表から分かることは、年ごとに子どもたちに5mm以上の結節と、のう胞がある子どもが増えているということです。
結節は、0.5%→0.7%→0.9% と、この2年で1.8倍にも増加。
のう胞も、36.2%→44.7%→55.9% と、子どもの3人に1人から2人に1人以上に増加。そして、2次検査対象者(精密検査が必要な子ども)も0.5%→0.7%→0.9% と、1.8倍に増加しています。

こうした急激な増加は、非常に大きな問題であるにもかかわらず、「県民健康調査」検討委員会は、この問題についてほとんど検討せず、マスコミもほとんど報道していません

福島県・関東 セシウム汚染地図
 (画像は朝日新聞から)

セシウムによる汚染地図を見ても分かるように、最後(2013―2014年)に検査した会津地方の方が浜通りや中通りよりも汚染数値が低いにもかかわらず(おそらく、事故から3年後の検査であったため)甲状腺異常が一定の比率で見つかっているということは、もしも、同じ時期(2013―2014年)に、全地域を検査していたなら、浜通りや中通りはもっと甲状腺異常が増えていると推測され、甲状腺がんも多く見つかっている可能性が高いでしょう
(これは「2巡目」の検査結果が出れば分かります)

そして、星北斗座長が言った「甲状腺がんの発症割合に地域差がない(汚染度と発症に関連がない)」というのが間違いであることは、会津地方における甲状腺がんの発症を市町村別に細かく見ていくと分かります

甲状腺がんが発症しているのは、放射能汚染数値が高い「中通り」に隣接している猪苗代町(1人)、会津若松市(5人)と下郷町(1人)で、9人中7人を占めています。残った2人は、湯川村と会津坂下町から1人ずつ発症しています。

会津地方、中通り、浜通りの市町村別の甲状腺がん発症地図 104人
  (画像はコチラから拝借 クリックすると画像が拡大できます)

「放射能であまり汚染されていない」とされている会津地方の中央部にある湯川村と会津坂下町から何故、甲状腺がんが発症したのか? 
答えは、先日書いたブログの中にありました。「チェルノブイリで急増した心筋梗塞が、福島でも急増している。他の病気も加えると、2年で1200人以上も死者が増えている」という記事で紹介した地図にセシウム汚染濃度が分かりやすくまとめてあり、湯川村と会津坂下町は、会津地方でも特に汚染数値が高い地域だったのです。当然、セシウムだけでなく放射性ヨウ素も降り注いだはずです。

セシウム汚染と急性心筋梗塞(宝島)
  (画像は宝島から拝借 画像をクリックすると拡大できます)

5人の子どもから甲状腺がんが見つかった会津若松市の記事を思い出します。

再検査で23万ベクレル 福島地裁会津若松支部の汚泥
 (2011年9月8日 日本経済新聞)

 福島地裁会津若松支部(福島県会津若松市)の側溝の一部で採取した汚泥から1キログラム当たり約18万6千ベクレルの高濃度の放射性セシウムが検出された問題で、福島地裁は7日、別の委託会社が再検査した結果、同じ汚泥から約23万7千ベクレルのセシウムを検出したと明らかにした。

 会津若松支部は、東京電力福島第1原子力発電所から西約100キロにある。

 政府は10万ベクレルを超える汚泥はコンクリートなどで遮蔽して保管するよう求めており、地裁は10日に除去を始め、汚泥を筒状のコンクリート構造物に入れて敷地内に保管する。総量は推定で計約2.5立方メートル。近隣住民には個別に周知する。

 地裁によると、遮蔽に使うのは地下水路などに利用される「ボックスカルバート」といい、内径は縦、横、奥行きがいずれも約2メートル。それを地面に立てて置き、底に敷いたシートの上に袋詰めした汚泥を置き、上から土砂をかぶせるという。〔共同〕


県民健康調査 検討委員会の星北斗座長及び委員の皆さん ―― こうした事実があってもまだ「甲状腺がんの発症割合に地域差がないことから、原発事故との因果関係は考えにくい」と言えるでしょうか?

「年ごとに結節とのう胞が大幅に増えている」という事実があってもまだ、「症状が現れていないのにスクリーニングで皆を調べたから多数の甲状腺がんが見つかっただけで、異常な増え方ではない」という説明を続けることができるでしょうか?

こうした姿勢で、福島県民の健康を守ることができるでしょうか?

子どもの甲状腺がんだけでなく、心臓病や腎臓病、消化器系の疾患など様々な病気が原発事故後に増えています

2012年福島県の死因ワーストランキング
   (表は宝島から拝借)

特に、急性心筋梗塞や慢性リウマチ性心疾患は、全国平均の2.4倍以上になっています。下のグラフは慢性リウマチ性心疾患の年次推移です。紺色が福島県、赤が全国平均です。

慢性リウマチ性心疾患のグラフ

政府には、国民の健康と生命を最優先で守るという責務があります。福島原発事故の後に日本で起こっている健康問題をこれ以上放置することは許されません。福島県内外での健診の拡充や被ばくを減らすための対策を早急に具体化する責任が政府にはあります

チェルノブイリでは、原発事故から5年後に「被ばくを減らすための法律」がウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3つの国にできました。年間1ミリシーベルト以上被ばくする地域の人々には「避難の権利」があり、5ミリシーベルト以上は「移住の義務」があることを柱とする「チェルノブイリ法」は、移住のための費用や医療費などの手厚い補償があります。移住を選んだ住民に対して国は、移住先での雇用を探し、住居も提供。引越し費用や移住によって失う財産の補償も行われています。

ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士はこう言っています。「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも、早急な防護基準の見直しが必要です

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