2012/08/18

福島原発事故 4事故調報告書の比較 (毎日新聞)

東日本大震災:福島第1原発事故 4事故調報告書の比較
(毎日新聞 2012年07月24日 東京朝刊)

 政府事故調が23日に最終報告書を公表し、東京電力福島第1原発事故を巡る主要な四つの事故調の報告書が出そろった。しかし、津波到達前に地震で1号機の冷却装置「非常用復水器」(IC)が損傷した可能性や東電の全面撤退問題、官邸の対応など主要部分で見解が異なり、真相究明には及んでいない。(肩書は事故当時)

 ◇地震原因説、真偽は

 「地震から津波到達前の間、第1原発1号機のICの配管とタンクに、冷却機能を失わせるような損傷が生じたと認められない」。政府事故調は、ICのほか、1〜3号機の原子炉格納容器や圧力容器、周囲の配管についても、地震による損傷の可能性を否定した。福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)と東電社内調査委員会(東電事故調)も同様だ。一方、国会事故調査委員会(国会事故調)は地震損傷の可能性を否定できないと指摘し、真っ向から対立している。

 ICは、旧型の原子炉特有の冷却装置。国内では第1原発1号機(運転開始1971年)と、日本原子力発電敦賀原発1号機(同70年)にしかない。事故はICを巡る東電の初動ミスが、1〜3号機の炉心溶融の引き金になったとみられ、各事故調はICの検証に多くのページを割いた。

ICは配管破断した場合、弁が閉じて自動停止する仕組みだ。当時のデータでは、地震直後には作動していたとみられ、政府事故調が地震損傷を否定する根拠の一つとなっている。しかし、国会事故調は「配管亀裂が微細なら自動停止しない」と反論している。

 地震で配管破断があれば、原子炉建屋内では大量の放射性物質が放出され、作業員の入室が困難になるとみられる。政府事故調は「実際にはそうなっていない」として破断を否定する。これに対し、国会事故調は「IC内の冷却水には、高濃度の放射性物質が含まれているわけではない」と指摘し、平行線をたどっている。

 さらに国会事故調が着目したのは、東電運転員が津波到達前の昨年3月11日午後3時過ぎ、ICを手動停止した経緯だ。東電は「急激な温度変化で原子炉の重要機器に負荷がかかるのを避けるため、運転マニュアルに従って手動停止した」と主張する。しかし国会事故調は「手動停止は、ICの配管から冷却水が漏れていないかを確認するため」との運転員の証言を新たに得て「東電の説明は不合理であり、それに執着する姿勢が、配管が破損したのではないかとの疑念を生んだ」と批判した。

第1原発は、頼みの綱の非常用電源を失ったことで炉心溶融へと進展した。東電は「津波による浸水」を理由に挙げるが、国会事故調は、津波到達時間などを検証した結果、少なくとも1号機の非常用電源の喪失は津波前だった可能性を指摘した。「原因は想定外の津波」とする東電の主張を覆す「新事実」とも言えるが、政府事故調はこの点について再検証しておらず、謎は残されたままだ。

 地震損傷を巡り、政府、国会の各事故調で見解がまったく異なるのは、1〜3号機の原子炉建屋内では放射線量が高く、重要機器の破損状況について把握できないことが背景にある。

 国会事故調は「建屋内部の詳細な検査ができない段階で、地震損傷はないと断言する客観的根拠はない」と主張。政府事故調も「放射線量が下がった段階で、建屋内の詳細な実地検証を必ず行うべきだ」と結んだ。

 第1原発が地震で損傷し「冷やす」「閉じ込める」の機能を失ったと断定されれば、その他の原発の耐震性についても見直しが必至となるが、政府、国会の両事故調は相反する見解を出しただけで、結論は将来に持ち越された。北海道大の奈良林直教授(原子炉工学)は「第1原発内の確認が困難である以上、各事故調とも状況証拠に頼らざるを得ない面もある。9月に発足する原子力規制委員会など政府は、事故原因の究明に今後も長期的に取り組む義務がある」と指摘する。

 ◇東電撤退検討か否か

東電が全面撤退を検討したとされる点については、民間事故調以外は否定的な見方だ。

 全面撤退問題は、清水正孝社長が3月14日夜から15日未明にかけて、海江田万里経済産業相や枝野幸男官房長官らへ直接電話し「第1原発からの退避もあり得る」との趣旨の発言をしたことがきっかけで疑念が広がった。政府事故調は、海江田氏らと同じころ清水氏から電話を受けた原子力安全・保安院の寺坂信昭院長が、一部の作業員の退避と受け止めていたことから「清水氏が寺坂氏とは違う趣旨の説明を海江田氏らにする必要はない」と推測した。

 社長が政府要人に直接電話した点については「清水氏は菅直人首相らから情報を迅速に入れないことを厳しく注意されており、一部退避の場合でも、海江田氏らに直接電話しても不自然とは言えない」と判断した。

 一方、東電のテレビ会議で、高橋明男フェローは14日夜「全員のサイト(第1原発)からの避難ってのは何時ごろになるんですかね?」「1F(第1原発)から、みんな2F(第2原発)のビジターホールに避難するんですよね」などと発言している。

 全員撤退を内部検討していたとも考えられるが、政府事故調に対し高橋氏は「『全員』『みんな』は、事故対応に当たっている者以外の避難予定者について述べた」と説明。テレビ会議では15日も事故処理の継続を前提にした発言が繰り返されており「高橋氏の主張は不自然とまでは言い難い」と判断した。

国会事故調は「ベント(排気)や海水注入の遅れで、官邸の東電への不信感が生じる中、清水氏から『原子炉のコントロールを放棄しない』『一部を残す』という重要な事実が伝えられず、海江田氏に誤解が生じた」と指摘。「清水氏のあいまいな相談と、官邸側の東電本社に対する不信感に起因する行き違いから生じた」との見方を示した。東電事故調は「全面撤退など考えたこともない」と否定した。

 一方、民間事故調は「聴取した多くの官邸関係者が一致して全員撤退と受け止めており、(全員撤退はないとする)東電の主張を支える十分な根拠があるとは言い難い」とみている。

 ◇官邸対応の問題点

 地震、津波、原発事故が重なった複合災害に対し、首相官邸は危機管理能力を発揮できなかったと、4事故調とも結論づけた。菅氏の現場介入が現場を混乱させたことが大きな要因と認定した。

「現場対応は専門的・技術的知識を持ち合わせた事業者が判断すべきで、政府や官邸が陣頭指揮をとる形で介入するのは適切ではない」。政府事故調は、菅氏の第1原発視察や1号機への「海水注入問題」を例に挙げ、官邸の対応を批判した。原子力について「他の閣僚より土地勘がある」(政府事故調ヒアリング)と自任する菅氏は3月12日朝、「後に政治的批判を受ける可能性がある」と忠告する枝野氏を振り切って視察を実行した。菅氏は「現場の皆さんの顔と名前が一致したのは大きなことだった」(国会事故調のヒアリング)と成果を力説したが、政府事故調は「代わりの人物を派遣するなど、より問題の少ない方法によるべきではないか」と記述した。海水注入問題についても、政府事故調は「現場対応に関わる問題について、官邸がどこまで関わるか検討する必要がある」と指摘した。

 国会事故調は「情報を把握できないまま介入し混乱を引き起こした。事故の進展を止められず、被害を最小化できなかった最大の要因」と認定。同時に「官邸は、真の危機管理意識が不足し、官邸が危機において果たすべき役割についての認識も誤っていた」と批判した。

東電事故調も、菅氏が吉田昌郎・第1原発所長らへ直接電話したことなどを「官邸の介入」と批判。「無用の混乱を助長させた」と指摘した。しかし、国会事故調は東電に対して「官邸の過剰介入を責めることが許される立場にない。東電がそうした混乱を招いた張本人だ」とクギを刺した。

 民間事故調は菅氏が原発の非常用電源の手配などに関与したことを引き合いに、上司が微細な問題について部下に口出しする「マイクロマネジメント」との表現を使って批判。「場当たり的で泥縄的な危機管理だった」と結論付けた。ただし「菅氏が東電に対して全面撤退を拒否したことで、東電に強い覚悟を迫った。今回の危機対応の一つのターニングポイントだった」と一部評価した。

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 ◇政府事故調・畑村委員長の所感(要約)

 放射線量が高く現地調査が困難なため、解明できない点が残った。事故や被害は継続しており、課題の一つが廃炉問題。関係機関が継続的に作業の監視をしなければならない。事故で得られた知見を100年後の評価にも堪えられるようにするには、一般化・普遍化された知識にまで高めることが必要だ。今回得られた主な知識を示したい。

(1)あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる

(2)見たくないものは見えない。見たいものが見える

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする

(4)形を作っただけでは機能しない。仕組みは作れるが、目的は共有されない

(5)すべては変わるのだから、変化に柔軟に対応する

(6)危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化を作る

(7)自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要と認識し、そのような能力を涵養(かんよう)することが重要

 この事故で学んだ事柄を今後の社会運営に生かさなければならない。事故を永遠に忘れることなく、教訓を学び続けなければならない。

 ◇政府事故調のメンバー(敬称略)

委員長=畑村洋太郎(東京大名誉教授、失敗学)

委員=尾池和夫(国際高等研究所長、地震学)▽柿沼志津子(放射線医学総合研究所チームリーダー)▽高須幸雄(国連事務次長)▽高野利雄(弁護士、元名古屋高検検事長)▽田中康郎(明治大法科大学院教授、元札幌高裁長官)▽林陽子(弁護士、国際人権法)▽古川道郎(福島県川俣町長)▽柳田邦男(作家)▽吉岡斉(九州大副学長、科学史)

技術顧問=安部誠治(関西大教授、公益事業論)▽淵上正朗(コマツ顧問、工学博士、機械工学)

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 この特集は西川拓、中西拓司、阿部周一、奥山智己、岡田英、神保圭作が担当しました。

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 ■ことば

 ◇海水注入問題

菅直人首相は3月12日夜の官邸での会議の席上、1号機への海水注入により再臨界の可能性があるかどうか質問したが、班目春樹・原子力安全委員会委員長はその可能性を否定せず、同席していた保安院幹部も答えられなかった。その場でやりとりを聞いていた東電の武黒一郎フェローは、菅氏をおもんぱかって吉田昌郎・第1原発所長に電話。海水注入を中断するよう求めたが、吉田氏は実際には注入を継続していた。

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