ガレキを活かす「森の防波堤」に関する質問とその回答

宮脇昭さんが環境省からの質問に答えた回答

かつて、木質材の地中埋設については、発酵熱やメタンガスの問題が議論されていたが、現実に行なったブラジル・アマゾンのベレンやマレーシア・ボルネオのビンツル、山形県酒田市などで輸入木材の樹皮など、木性の、いわゆる廃棄物を土に混ぜて形成されたマウンド上の森の再生に、我々はすべて成功している。

(宮脇昭著:『「森の長城」が日本を救う』から抜粋 P184~188)
「森の防波堤」に関する環境省からの質問事項とそれへの回答

Q1 ガレキには大きなコンクリート片とか、違う大きさのものが含まれているが、これらの大きさはばらばらでもよいのか?

A 可能な限り、大きなものは子どもの頭くらいの大きさに砕いて(大きさは均質でなくてよい)土や砂礫と混ぜながら盛ってゆく。そのようなマウンド(土塁)は根群の発達に最も重要な通気性がよくなる。また、根は土中でガレキを抱くので、津波や台風でも倒れにくくなる。

Q2 ガレキをそのまま埋めてこのようなマウンドをつくると、強度に問題は出ないか?

A 国内でも新日鉄の釜石、君津、名古屋、大分などの製鉄所の境界防災・環境保全林形成の実例が実証している。上記のようにガレキを砕いて土や砂礫と混ぜつつ、ほっこらとマウンドを形成すると通気が維持され、木片はゆっくり分解されて木の養分となり、10~20年間で5~10%沈下して安定し、樹林帯の基礎としての強度は確実に確保できる。

Q3 穴を掘ってマウンドをつくり、ガレキを埋めるだけでも相当な作業量になり、費用的にも、決して安くないのではないか?

A 「森の長城」は、地上部に盛る土量が大半であり、地表に掘削する穴は、土量によって規模が異なる。埋め立てや焼却に比べて労力・作業量は格段に少なく、費用的には将来の維持管理コストに比し、はるかに安価である。

Q4 土地の確保の問題もあり、どこでもこういうかたちで整備することは困難ではないか?

A ガレキのマウンド上の森は、土地や費用をかけた埋め立てよりも、
・津波からいのちと生活を守る波砕効果
・新しい緑豊かな自然に近い地域景観の形成
・可能なところでは林内に遊歩道をつくるなど、将来にわたって内外の来訪者を誘致する観光資源として、地元経済を活性化する経済効果
・思い出のこもった家屋の木片などが、いのちと生活を守る森林に生まれ変わる心理的な安心感
・国家戦略である生物多様性の保全空間となる

などの持続的で多様な効果を持つ。このような防災森林は、いのちを守り、地域経済と共生する。コンクリートなどのハードな防波堤以上に、原則的に災害に見舞われた地域のすべてに形成する。津波の破砕効果の必要性や土地利用の状況を考え、まず、できるところからただちに実施する。

同時に、ドイツやスイスの林業のように、80年、120年伐期に対応して、将来高木は択伐して、慎重に持ち出し、焼かない、捨てないで、家具や建築材として積極的に利用する。

客員・外来樹種林と異なり、林内の低木層、亜高木層で、待機していた後継樹が生長して土地本来の多層林群落を形成し、持続し、防災・環境保全と地域経済を将来的にいつまでも多面的に維持・発展させる。

Q5 照葉樹の生長の北限に近く、このようなアプローチは、岩手など北のほうでは限界があるのではないか?

A 岩手県北部以北の「森の長城」の樹種選定については、研究者による現地での確認の必要な地域もあるかもしれない。しかし、大津波後の現地調査と、これまでの植生調査結果の集大成である宮脇昭著『日本植生誌』を基礎資料として、潜在自然植生の主木群のタブノキやカシ類を主体とした常緑広葉樹の植林は、将来的に管理費もかからず、エコロジカルにも好ましく、充分に可能である。

タブノキやカシ類は釜石市や大槌町の北まで自生しており、現在ではポット苗など根群の充満した幼苗を自然の掟に沿って混植・密植すれば、常緑広葉樹林の再生は充分可能と判定される。これらの樹種は、現に今回の大津波に耐え、波砕効果によってそれを抑制している。

Q6 ガレキには塩分を含んでいるものもあるが、それらは「塩抜き」してからでないと埋められないのか?

A 植林地はカマボコ型にガレキなどを発生土などと混ぜて盛ったマウンドであり、降水量の豊かな日本では表層からの雨水の浸透により、塩分は早期にマウンドの下の地中に流下する。したがって、植樹直後に根を張る表層土部分からガレキなどの塩抜きは不要である。

Q7 ヘドロが堆積しているところもあるが、ヘドロなどを混ぜて埋め立てることはできるのか?

A ヘドロは、主に高チッ素性の有機腐葉土で、砂礫や土、ガレキなどとよく混ぜ込むことにより、最も有効な樹木などの植物への重要な養分(肥料)として有効利用が可能である。木材についても焼却すれば炭酸ガスが発生し、さらに有機物としての貴重な地球資源を失うことになる。法律上の整備を行い、マウンド内に土砂と混ぜて埋め込むことにより、ゆっくりと分解して木の養分となり、森林づくりの遅効性の堆肥として活用できる。また、将来的には経済林としても役立つ。

ドイツやオランダなどでは、木片などの植物性有機ガレキは焼却したり廃棄したりしないで、土と混ぜて森や緑地形成などに積極的に利用するように条例などで決められており、第二次世界大戦後、都市林(アーバンフォレスト)などが、戦災ガレキを土中に埋めてつくられている(オランダ・ロッテルダムの干拓地の森づくり、ドイツ・ミュンヘンのオリンピック会場など)。

かつて、木質材の地中埋設については、発酵熱やメタンガスの問題が議論されていたが、現実に行なったブラジル・アマゾンのベレンやマレーシア・ボルネオのビンツル、山形県酒田市などで輸入木材の樹皮など、木性の、いわゆる廃棄物を土に混ぜて形成されたマウンド上の森の再生に、我々はすべて成功している。

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