2012/05/17

過大な電力不足予測で原発の再稼働を狙う 関電に募る不信感  

記者の目:揺れる今夏の電力需給=横山三加子
(毎日新聞 2012年05月17日 00時13分)

 ◇関電は情報開示で信頼回復を

 関西電力にとって勝負の夏が迫っている。原発の再稼働の有無が勝負なのではない。関電にとって今夏は、企業として信頼回復を図る最後の機会だ。原発の全停止が続く中、電力需給が厳しいとして今夏も節電要請をする方針だが、昨夏も昨冬も節電要請の根拠とした電力需給見通しが大幅に外れたという事実を軽視してはいけない。ずれた情報提供をし続け、関電は社会の信頼を失った。信頼回復に必要なのは企業や家庭などが求めている情報を先取りして開示する姿勢だ。

 政府は関電管内の今夏の需要を10年夏並みの猛暑想定で2987万キロワット、8月の不足は14.9%と見込む。政府は電力不足が深刻な関電への融通のため中部、北陸、中国の3電力会社にも節電要請する方向だ。原発が稼働していた昨夏よりも供給力が減り、一定の節電が必要なことは理解できる。だからこそ「本当にどれだけ足りないのか、何が可能なのかを考える材料を示してほしい」(関西経済同友会の大竹伸一前代表幹事)と企業は早期の正確な情報提供を求めてきた。一方で需要想定に対する疑問や供給力の上積みの少なさに対する厳しい見方も根強い。

 ◇甘い見通しに募る不信感

 背景にあるのは、関電による昨夏(15%)と昨冬(10%以上)の節電要請で、企業や自治体が節電対策に奔走した経験だ。結果は電力不足にはならず供給余力が10%以上の日がほとんどだった。節電効果が昨夏は6.5%、昨冬が5%と低かったのは、企業や家庭が非協力的だったからではなく実態を見て賢く節電したからだ。「過大な需要想定と低めの供給力」(滋賀県の嘉田由紀子知事)とも言われた関電の需給見通しは甘かった。これを解消しない限り、関電が発信する情報に対する信頼回復はないし、節電に本気で取り組んでもらうことは難しい。

 八木誠社長ら経営陣は「理解いただけるよう丁寧に説明を続けたい」と繰り返す。確かに関電も改善を模索してきた。昨夏は見込んだ供給力不足6.4%に加え、約8%の供給余力を見積もった節電要請で反発を招いた。関電も「自分たちに甘すぎた」(幹部)と振り返るほどだ。昨冬は関西広域連合と協議して節電目標を設定し、確保する余力も最低限必要とされる3%だけにした。今夏の需給見通しも関西広域連合や大阪府市エネルギー戦略会議で説明した。大阪府市の古賀茂明特別顧問も「エネルギー問題で電力会社を交えて議論する場ができたことは大きな一歩」と述べた。

 それでも、企業や家庭の納得感は薄い。大阪市の橋下徹市長は「電力問題は府県民の信頼を得ることが基礎だ」と主張する。リスク心理学に詳しい同志社大の中谷内一也教授は、「信頼の回復はどんな分野でも難しいが、中立性を持ち、相手と同じ目線に立った価値観の共有が必要。大事なのは何を重視するか、相手と一致していること」と指摘する。原発の安全性や必要性について議論が続く今、拙速な再稼働を心配する人は多い。東京電力福島第1原発事故が実際に起きたのだから当たり前だ。多くの人が重視しているのは「どの程度の節電の工夫や負担で電力不足は回避できるのか」であり、知りたいのは電力需給の実態だ。

 ◇節電側の疑問 解消の努力必要

 実際の電力需給は天気に左右されるし節電の取り組み度合いなどによって変化する。だからこそ、ひとつの想定に固執することなくあらゆる可能性をわかりやすく提示することが必要だ。政府と関電は10日、大飯原発が再稼働すれば供給力は足りるとの試算を示した。直前まで再稼働しても電力不足は避けられないとしていた関電の信頼回復はまたも遠のいたと言えそうだ。

 政府の見通しでは供給力不足は445万キロワット。他社からの電力融通や揚水発電は、昨夏や昨冬、計画よりも上積みできた。政府は中部、中国など3電力会社に5%の節電を要請する方針だが、関電はどの程度の電力融通を追加で受けられるのか。15日の府市エネルギー戦略会議で関電は委員の求めに応じる形で、東電を含めた4社から最大162万キロワットの追加融通の可能性に触れた。さらに、家庭向けに昼間のピーク時間帯の料金を2倍にして、需要抑制を狙うなど、さまざまな可能性を追求する姿勢を示しつつある。猛暑でない場合や節電の浸透で需要が下がれば、余剰電力を生かせる揚水発電の供給力はどの程度高まるのか。節電要請期間中は実態に即して需要想定と水力の供給力を再考することや、節電効果をすぐに分析することも大切だ。

 節電する側が抱く一つ一つの疑問をくみ取って解消することが関電の信頼回復につながり、企業や家庭の節電の取り組みに結びつく。まだ間に合う。関電には節電する側の求めに応えてもらいたい。(大阪経済部)


特集ワイド:関西電力「解剖」 今夏電力不足14.9%…原発依存の「独立王国」
(毎日新聞 2012年05月16日 東京夕刊)

 この夏、電力9社中断トツの「14・9%」(政府の需給検証委員会のデータ)の電力不足が懸念される関西電力。このため大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を訴えるが、不信感は増すばかり。いまや東電とともに批判の矢面に立つ名門企業を「解剖」してみる。【瀬尾忠義】

 「電力不足」を主張する関電について「裏付けとなる詳細なデータを示していない。停止中の大飯原発を再稼働させたいとの思惑がまずあり、そこから逆算して『こんなに足りない』と脅しているだけ」と憤るのは、大阪府・市のエネルギー戦略会議の飯田哲也座長代理(NPO法人環境エネルギー政策研究所所長)だ。4日の戦略会議では「時間切れで原発再稼働を狙っている」と激怒する場面もあった。委員側が、原発が再稼働しない場合でも安定供給できる見通しの提示を求めたのに対し、関電は「節電や電力融通をどれだけ織り込むかを国に相談しないといけない」と回答しなかったからだ。ようやく15日になって、他社からの融通があれば不足分は5%程度になるとの見通しを示したが、飯田氏は「関電は高慢。こちらが決めたものにゴタゴタ言うなという“上から目線”は、独立王国か田舎の殿様のようだ」と切り捨てる。

 関電は「安全を確認した原発は再稼働させてもらいたいと、丁寧に説明を続けるしかない」(広報室)とのスタンスだが、筆頭株主である大阪市の橋下徹市長は全面対決の姿勢だ。4月には「再稼働は許さない。国民をばかにしている。こうなったら民主党政権を倒す」と関電と民主党に“宣戦布告”してみせた。6月の関電株主総会で原発廃止や発送電の分離を迫る方針だ。

 「関電が見ているのは霞が関。市民ではない」。滋賀県の嘉田(かだ)由紀子知事も8日、日本記者クラブの会合で講演し、関電への不快感をあらわにした。知事によると、関電は昨春、県が節電計画策定のためデータを求めた際には応じなかったのに、昨年6月に突然「15%の供給量削減」を打ち出し、国に大飯再稼働の許可を要請。説明を求めると「エネルギー計画は国策だから」と開き直ったという。知事はこうも指摘した。「市民を見ないかのような体質を変えないと、企業として成り立たなくなるのではないか」

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 <政府が責任を持って地元自治体の理解・合意を得、一刻も早く大飯発電所の再稼働を実現し、他の原発についても速やかに対応してほしい>

 関西経済連合会が4月、会長名で発表したコメントだ。現在の関経連会長とは、森詳介・関電会長その人である。

 関電は従業員数約2万2200人、連結売上高2兆7700億円(いずれも11年3月現在)を誇る巨大企業だ。関経連会長を4人も輩出するなど財界活動にも積極的で、関西国際空港などの大規模事業をリード。住友金属工業、パナソニック(旧松下電器産業)とともに「関西財界御三家」と称される地位を築いてきた。

 その関電が、ライバルとして意識してきたのは東京電力だ。70年には美浜原発1号機の運転を開始し、71年の東電の福島第1原発1号機稼働に先んじた。現在までに福井県・若狭湾を中心に11基の原子炉を建設し、総発電量に占める原子力の割合は過去10年間で平均48%(10年3月末現在)。原発依存度は全電力会社の中で最も高い。

 「60年代、社運を懸けた大事業として水力発電所の黒部ダム建設に取り組んだように、関電には、先進的な取り組みに挑戦する社風がある。原発についても、発電コストが安い新しいエネルギーとして推進し、収益向上を図った」(大手証券アナリスト)

 東電福島第1原発事故を受け、電力業界では「東電に代わって関電がリーダー的な役割を務める」とみられたこともあったが、脱原発の機運が盛り上がり、原発頼みの経営構造が批判にさらされている。関電社内からは「原発事故を起こしたのは東電なのに、電力不足問題では、うちばかりが責められている……」という嘆き節が漏れてくる。

 経済評論家の内橋克人さんは「関電は、かつて芦原義重取締役名誉会長(故人)らの解任騒ぎなどもあって、関西財界での相対的な発言力は低下している」と語ったうえで、「原発シフトを進めるためにまだ稼働できる火力、水力の発電所の供給力を計算に入れず、隠してきた。今も企業の持つ自家発電などを考慮せず、供給力を過小に見積もり危機感をあおっている」と関電の姿勢を批判する。エネルギー政策に長年携わった元経済産業省幹部は「大阪、京都、神戸の経済界は一枚岩ではなく、関電に注文をつける力はない。その状況にあぐらをかき、地域独占で努力しなくてももうけてきた関電に、原発再稼働という複雑な問題を仕切れるはずがない」とみる。

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 一方、10年夏比15%程度の節電を目標とされた関電管内の企業は動き始めている。JR西日本は間引き運転▽オムロンは工場の電力を可視化し、ピーク電力を抑制▽三菱自動車は京都工場の自家発電機を改修し、7月に稼働−−などの対策を検討している。

 だが、ある関西財界関係者は「今の再稼働待望論には、“勢い”が感じられない。奇妙な静観ムードがある」と言い、こう解説する。「以前は『どうせ大飯原発は再稼働するのだから、あえて言う必要はない』という楽観論によるものだったが、橋下市長の関電批判発言以降は『市長、財界を取り仕切る関電のどちらにもニラまれたくはない』という心理が働いている」

 東日本大震災前から津波や地震による原発の電源喪失の可能性を訴えてきた共産党の吉井英勝衆院議員は「財界主導の静観論」を指摘する。

 「福島第1原発事故で国内での原発新設は不可能になったが、政府は海外に売り込む方針は変えていない。原発メーカーやゼネコン、素材産業、融資するメガバンクなどからなる強固な『原発利益共同体』は今も存在している。財界としては、むしろ関電に電力不足の責任を押しつけて嵐をやり過ごし、大飯再稼働後に原発ビジネスを再開しようという思惑なのだろう」

 夏が迫る中、関電は大飯原発再稼働の必要性をさらに訴えるとみられるが、電力問題に詳しい日本総合研究所の藤波匠主任研究員は「各電力会社がそれぞれに、需要の伸びに合わせて発電所を整備する時代は終わった。これからは電力会社間での電力融通を高めるべきだ」と提案する。

 イエローカードを突きつけられた関電はどうする?

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