追跡!真相ファイル(NHK 12月28日放映)から抜粋
“生涯100ミリシーベルトとされる被ばくの基準で、本当に健康への影響はないのか?”
福島をはじめ、全国の人々が現実に直面している放射能の脅威。
国は「直ちに体への影響はない」と繰り返すばかりだ。
その拠り所としているのが、ICRP(=国際放射線防護委員会)の勧告。
広島・長崎の被爆者の調査データをベースに作られ、事実上の国際的な安全基準となっている。
しかし関係者に取材を進めると、1980年代後半、ICRPが「政治的な判断」で、被ばくでガンになるリスクを実際の半分に減らしていた事実が浮かびあがってきた。
当時ICRPには、原子力産業やそれを監督する各国の政府機関から、強い反発が寄せられていたのだ。
そしていま、世界各地で低線量被ばくの脅威を物語る、新たな報告や研究が相次いでいる。
アメリカでは原発から流れ出た微量の放射性トリチウムが地下水を汚染し、周辺地域でガンが急増。
25年前のチェルノブイリ原発事故で、大量の放射性セシウムが降り注いだスウェーデンでは、ICRP基準を大きく上回るガンのリスクが報告されている。
いま、誰もが不安に感じている「低線量被ばく」による健康被害。
国際基準をつくるICRPの知られざる実態を追跡する。
・
NHK 追跡!真相ファイル「低線量被ばく 揺れる国際基準」文字起こし
<オープニングのVTRが流れます>
室井:幼稚園とかも普通にやってますね。こんな住宅街の中にあるんですか?
ナレーション:福島第一原子力発電所の事故から9カ月、私は作家の室井佑月さんとともに千葉県の柏市を訪ねました。原発からおよそ200キロ、一部の場所で今も放射性物質が検出されています。
リポーター:住民の人たちにとって本当に驚きだろうし…
室井:不安だと思いますよ。
<ナレーション> 一児の母親でもある室井さんは、同じように不安を抱える人たちからの依頼を受けて、各地で放射線量を測る活動を続けてきました。
室井:0.55(マイクロシーベルト)毎時。
リポーター:年間にすると・・・4.8ミリシーベルト。
<ナレーション> 食品に含まれる放射性物質の量を調べる民間の施設です。国は生涯100ミリシーベルトを上限に食品の安全基準を定めています。しかし人々の反応は・・・
母親の声「子どもに関しては、この数値でも心配だなと思っています」「みなさん今の(国の)基準を信じている方はいらっしゃらないと思います」
室井:だから、やっぱり根拠なんですよ。「ただちに影響がない」とか言われても根拠がないので、よけいいっそう不安なんですよ。
<ナレーション> 国が根拠としているのがICRP(国際放射線防護委員会)が定める基準です。100ミリシーベルト以下の低線量の被曝のリスクは極めて小さく、ほとんど影響がないとしています。本当にそうなのか?
低線量被曝の実態を調べるため、追跡チームは海外を取材しました。チェルノブイリ原発事故の影響を受けた北欧スウェーデン。放射線のレベルはあまり高くなかったこの地域でも、ガンが増えていました。食べ物を通して被害が広がったと見られています。
住民:私たちは何も悪くないのに、なぜこんな目に遭うのでしょうか。
<ナレーション> さらに国際基準を作ったICRPの当事者たちにも取材。低線量のリスクはどう決められたのか。驚くべき事実が明らかになりました。
ICRP名誉委員:「低線量のリスクはどうせわからないのだから、半分に減らしたところで大した問題はない。」「科学的な根拠はなかった。我々の判断で決めたのだ」
<ここから本編に入ります>
<ナレーション> 揺れ動く国際基準。知られざる低線量被曝の実態とは・・・追跡が始まる。
これまで、ほとんど影響がないとされてきた低線量被曝。それに疑問を投げかける事態が世界で起きています。スウェーデン北部ベステルボッテン県。古くから少数民族サーメの人々が暮らしてきました。
住民:いま周辺でガンが増えています。放射能が原因ではないかと疑っています。
<ナレーション> 原因と見られているのは、25年前に起きたチェルノブイリ原発事故。放射性物質を含んだ死の灰は、1500キロ離れたサーメの町まで降り注ぎました。当時の放射線レベルは、年間およそ0.2ミリシーベルト。国際基準の5分の1程度の低いレベルでした。
しかし今、ガンになる住民が増えています。事故の前と比べると、34%増加しました。事故直後スウェーデン政府は、食べ物に含まれる放射性物質の安全基準を設けました。人々がよく食べるトナカイの肉は1kgあたりの上限が300ベクレル。
現在の日本の暫定基準値(500ベクレル)より厳しい値です。サーメの人々は食べる肉の量も減らし、身体への影響を抑えようとしてきました。
住民:いつガンになるかわからないし、子や孫への影響も心配です。
<ナレーション> なぜガンが増えたのか。住民の調査を続けてきたマーティン・トンデル博士は汚染された食べ物を体内に取り込んむことでリスクが高まったのではないかと見ています。トンデル博士は汚染地域で暮らすすべての住民110万人のデータを解析。
<ナレーション> ガンになった人の被曝量を調べると、事故後10年間の積算でいずれも10ミリシーベルト以下だったことがわかりました。ICRPがほとんど影響がないとしている低線量でも、ガンになる人が増えていたのです。
トンデル博士:この結果に驚きました。明らかになったリスクがICRPより高かったからです。リスクは外からの被曝だけでなく、内部被曝に左右されるのです。
<ナレーション> 次に追跡チームが向かったのは、世界一の原発大国アメリカ。ここではより影響を受けやすい子供たちに深刻な問題が起きていました。イリノイ州シカゴ郊外。周辺に3つの原発が集中しています。原発から排出される汚水には放射性トリチウムが含まれていますが、アメリカ政府は国際基準以下なので影響はないとしてきました。しかし近くの町では子供たちがガンなどの難病で亡くなっていました。
6年前に建てられた慰霊碑。足元のレンガにはこれまでに亡くなった100人の名前が刻まれています。
住民:これが亡くなった息子の写真です。この痛みは誰にも伝えずに抱えてきました。
<ナレーション> 住民を代表し、被害を訴えている親子がいます。シンシア・ソウヤーさんとその娘セーラ(18)さんです。セーラさんは10年前、突然脳腫瘍を患いました。治療の後遺症で18歳になった今も身長は140cmほどしかありません。
セーラ:みんな死んでしまったのに、私だけが生きていて悲しいです。
<ナレーション> セーラさんが脳腫瘍になったのは、この町に引っ越してきて4年目のことでした。
シンシア:セーラはあの井戸の水をまいて遊び、食事をしていたんです。病気になってからはシカゴから水を取り寄せるようになりました。怖かったので、その水で料理をし皿を洗い、歯を磨かせていました。
<ナレーション> ソウヤーさん夫妻はガンと原発との関係を証明するため、州政府からあるデータを取り寄せました。過去20年間、全住民1200万人がどんな病気にかかったかを記した記録です。小児科医の夫ジョセフさんが分析したところ原発周辺の地域だけが脳腫瘍や白血病が30%以上増加。
<ナレーション> なかでも小児ガンは、およそ2倍に増えていました。ソウヤーさん夫妻は全住民の徹底的な健康調査を求めました。しかし国は「井戸水による被曝量は年間1マイクロシーベルトと微量で健康を脅かすことはない」と回答してきました。
シンシア:あまりに多くのものがセーラから奪われてしまいました。低線量の被曝が何をもたらすのか知ってほしいのです。
<NHKのスタジオ>
室井:いまのVTRはショックでしたね。基準値内だと「リスクは低い」って言い方をするんですけど…ガンにかからない人もいるだろうけど、セーラさんみたいにかかってしまう人もいるわけで。だから「リスクは少ない」という言い方は、逆にして言うと「リスクを背負い込む人もいる」ということですね。
鎌田:彼女の場合は具体的にどのくらいの量の被曝をしたと考えられているんですか?
西脇:それが彼女がどれだけ被曝したのかはわかっていないんですね。政府や電力会社は「基準以下だったので健康被害はない」として、実際の被曝量を測っていないんです。
室井:そんなの、すごくわかりづらいですね。子供が病気になったとしたら、別に損害(賠償)を求めたいんじゃなくて、病気にかかる前の健康な状態に戻してもらいたいと思うけど…それは、かかってからだと無理な話じゃないですか。
西脇:これはどれだけ被曝したらガンで亡くなるリスクが高くなるかということを示したグラフです。ICRPでは100ミリシーベルトでは0.5%ガンになるリスクが高くなるとしています。一見すると「大したことないじゃないか」と思われるかもしれませんが、例えば1万人の人がこれを浴びた場合は、
西脇:50人が、100万人の人が浴びた場合は5000人がガンで亡くならなくてもいい方がリスクを負ってしまうと。
鎌田:我々がいつも疑問なのは、じゃあこれ(100ミリシーベルト)より低い場合は…これが正しいかどうかも含めて、本当にこれでいいのかどうかわからない。
室井:しかも幼児や子供はもっとリスクが上がるじゃないですか。
西脇:まさにそこのところはVTRで見ていただいた通りに、内部被曝の影響とか感受性の高い子供への影響ということで。やはり低線量であっても影響が高いのではないかという意見もある一方で、少しずつ浴びていく場合には細胞が放射線に対して抵抗力を持つとか…
西脇:そういうような理由で低いんじゃないかという意見もあって、ここ(低線量被曝)での意見は分かれているわけなんですね。
鎌田:意見が分かれているという現状について、ICRPは今どういうことをやろうとしている?
西脇:そうですね、実はそのICRP自身がこの基準を見直すべきかどうか議論を進めていることがわかってきたんです。
再びVTR
<ナレーション> 10月、アメリカでICRPの会議が開かれました。ICRPはおよそ30カ国250人の科学者や政府関係者でつくるネットワークです。会議の一部だけが音声での取材を許可されました。福島第一原発での事故を受けて低線量被曝のリスクの見直しを求める意見が相次ぎました。
会議での発言:「8歳や10歳の子供がなぜ原発労働者と同じ基準なのか。福島の母親や子供たちは心配している」「ICRPの低線量リスクがこのままでいいのか、大きな疑問が持ち上がっている」
ICRPは低線量のリスクをどう見直そうとしているのか。カナダのオタワにある本部に直接聞くことにしました。事務局長のクリストファー・クレメンス氏です。すでに作業部会を作り、議論を始めているといいます。
クレメンス:問題は低線量のリスクをどうするかです。
<ナレーション> クレメンス氏は私たちに驚くべき事実を語りました。これまでICRPでは低線量の被曝のリスクは低いとみなし、半分にとどめてきたというのです。
クレメンス:低線量のリスクを半分にしていることが本当に妥当なのか議論している。
<ナレーション> 低線量のリスクをめぐる議論は、実は1980年代後半から始まっていました。基準の根拠となっていた広島・長崎の被爆者データがこの頃修正されることになったのです。それまで原爆で1000ミリシーベルトの被曝をした人は5%ガンのリスクが高まるとされてきました。
それが日米の合同調査で、実際はその半分の500ミリシーベルトしか浴びていなかったことがわかったのです。半分の被曝量で同じ5%ということは、リスクは逆に2倍になります。しかしICRPは低線量では半分のまま据え置き、引き上げないことにしたのです。
クレメント:この問題は何度も議論されてきた。なぜ引き上げなかったのかは、私が委員になる前のことなので詳細はわからない。
<ナレーション> なぜ低線量のリスクを引き上げなかったのか。私たちは議論に関わったICRPの元委員に取材することにしました。調べてみると、ある事実がわかりました。当時の主要メンバーは17人。そのうち13人が核開発や原子力政策を担う官庁とその研究所の出身者だったのです。その一人、チャールズ・マインホールド氏。アメリカ、エネルギー省で核関連施設の安全対策にあたっていた人物です。電話での交渉を重ねて、ようやく私たちの取材に応じました。チャールズ・マインホールド氏、1970年代から90年代半ばまでICRPの基準作りに携わってきました。
低線量のリスクを引き上げなかった背景には、原発や核関連施設への配慮があったといいます。
マインホールド:原発や核施設は、労働者の基準を甘くしてほしいと訴えていた。その立場はエネルギー省も同じだった。基準が厳しくなれば核施設の運転に支障が出ないか心配していたのだ。
<ナレーション> マインホールド氏は自らも作成に関わったという、エネルギー省の内部文書を取り出しました。1990年、ICRPへの要望をまとめた報告書です。低線量のリスクが引き上げられれば、対策に莫大なコストがかかると試算し、懸念を示していました。
マインホールド氏はアメリカの他の委員と協力し、リスクの引き上げに強く抵抗したといいます。
マインホールド:アメリカの委員が低線量では逆に引き下げるべきだと主張したのだ。低線量のリスクを引き上げようとする委員に抵抗するためだった。
<ナレーション> その後ICRPは、原発などで働く労働者のために特別な基準を作ります。半分のまま据え置かれていた低線量のリスクをさらに20%引き下げ、労働者がより多くの被曝を許容できるようにしたのです。
マインホールド:労働者に子供や高齢者はいないので、リスクは下げてもよいと判断した。科学的根拠はなかったが、ICRPの判断で決めたのだ。
<ナレーション> いまアメリカでは原発や核関連施設で働いていた人たちが、相次いで健康被害を訴えています。女性たちは核燃料の再処理施設で、長年清掃の仕事をしていました。体に異変が起きたのは、仕事を辞めてしばらく経ってからのことでした。
元労働者:乳がんと喉頭がん、そして顔に皮膚がんを患っています。健康への影響はないと信じて働いてきた女性たち。いま国に対して補償を求める訴えを起こしています。
元労働者:私たちはモルモットでした。どんなに危険かも知らされませんでした。
NHKのスタジオ
室井:ICRPの人が出てきましたけど、「根拠がない」って。「半分に減らしてもかまわない」みたいなことを言ってましたけど、「根拠がない」って初めて聞いたんで驚いちゃったんですけど。
西脇:ちょっとこちらをご覧いただきたいんですけど、これは2010年のICRPの予算がどこから来ているのかを示したものなんですけども、アメリカの原子力規制委員会を筆頭に、原子力政策を担う各国の官庁から・各国政府からの寄付によって成り立っているんですね。
西脇:日本も原子力を推進する日本原子力研究開発機構が毎年それなりの額を寄付していると。
室井:そうするとICRP自体が原発を推進したい人たちの側が作ったものだから、安全基準値を決めるわけだから…それじゃいけないんですよね。
西脇:ICRPというと日本では科学的な情報を提供してくれるイメージがあるんですけれども、彼ら自身も繰り返し言っていたんですけれども…彼らは政策的な判断をする集団だと。どこまでが許容できて許容できないのかを、政治的に判断する組織だと。
室井:ということは、自分で判断していくしかないと思うんです。しかも安全な方に。どれだけ取らないようにするか、自分で決めっていった方がいいのかなと思いますね。
鎌田:低線量でも実は被害が出ているんじゃないかという海外のケースをこれまで見てきたんですけれども…いまの我々と決定的に違うのは、彼らはこういうことだと全く知らなかったわけですね。その基準自体も曖昧だ、あるいは基準に沿っていればいいわけではないということを彼らは知らなかった。
鎌田:我々は少なくとも知ってるわけですから…。国に対してこういうことを求めたいということが…もしあるとすれば、どうですか?
室井:正しく怖がるには、やっぱりある程度情報公開してくれないと…知らないのが怖いと思うんです。知ったら、それをもとに考えることができるから。いちばん…情報を上げてこないというのが良くない気がします。
鎌田:それを政府に求めたいということですね?
室井:求めたいですね。
最後のVTR
<ナレーション> 原発の近くで暮らし、幼いころ脳腫瘍を患った18歳のセーラさんです。治療の後遺症で右手が麻痺し、いまも思うように動かすことができません。被曝から健康を守るための基準があるのに、自分のような被害が後を絶たないことにやりきれない思いを感じています。
セーラ:科学者には私たちが単なる統計の数値でないことを知ってほしい。私たちは生きています。空気と水をきれいにして下さい。たくさんの苦しみを味わいました。誰にも同じ思いをしてほしくはありません。
<ナレーション> 日本政府は食品のさらに厳しい安全基準を新たに示し、4月から適用することにしています。「自分と同じ苦しみを誰にも味わってほしくない」セーラさんの言葉を重く受け止めて、私たちは放射能のリスクにこれから立ち向かっていかなければならないのです。
・
低線量被曝、揺らぐ国際基準
青山貞一
掲載月日:2011年12月29日
独立系メディア E?wave
福島第一原発事故後、 “生涯100ミリシーベルト”、”年間20ミリシーベルト”とされてきた被曝基準で、”本当に健康への影響はないのか”が、我が国でも徹底議論されてきた。
当時、イタリアのテレビで何度も見た福島原発事故の映像
◆青山貞一・池田こみち:海外メディアは大震災・原発事故をどう伝えたか
●ドイツ『シュピーゲル』山下俊一インタビュー
たとえば原発事故の現場である福島県では、事故以来、山下俊一氏を福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして低線量被曝の健康影響について対応してきた。山下氏は医学者であり、現在、福島県立医科大学副学長となっている。
その山下氏は放射線防護の専門家で59歳、放射線の影響を解明するうえで長崎の被爆者や1986年のチェルノブイリ原発事故の影響を研究し、チェルノブイリについても日本の科学調査団の一員として現地を100回近く訪問している。
だが、山下氏の仕事は地元福島県の住民の強い反発を買っている。 刑事告発まで受けている。
ドイツの『シュピーゲル』は、その山下氏にインタビューし、福島で予想される被曝の影響について聞いている。以下はその一部である。
インタビューの全容はこちら
山下:100mSvでも大丈夫だから心配いらない、などとは言っていません。ただ、100mSv未満ではがん発症率の上昇が証明できていない、と話しただけです。これは広島、長崎、チェルノブイリの調査から得られた事実です。
シュ:だが、そうやって安心させようとすることが、住民の方々の怒りと恐怖をかえって高めることになるとは思わなかった?
山下:日本政府が年間被曝上限を20mSvに設定したことが、混乱に拍車をかけたと思います。国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力非常事態が起きた際には年間被曝上限を20~100mSvのあいだに設定するよう提言しています。その範囲のどこで線引きをするかは政治的な判断で決まることです。リスクと利益をはかりにかけて考えなくてはいけません。避難するにしてもリスクを伴うからです。放射線防護の観点から見れば、日本政府は最も慎重な方針を選んだのですが、それが皆さんの混乱と不安を高めてしまいました。
シュ:あなたはご自身の数々の発言のため世間で物議をかもしている。あなたを刑事告発したジャーナリストがいるし、反原発の活動家は……
山下:……そういう人たちは科学者ではありません。医師でもなければ放射線の専門家でもない。研究者が研究を積み重ねてきめた国際基準についても何も知りません。皆さんが噂や雑誌や、ツイッターの情報を信じているのを見ると悲しくなります。
シュ:だが専門家は原発は100%安全だと何十年も言い続けてきた。そんな専門家を信じられるわけがない。
上記、ドイツの『シュピーゲル』による山下俊一氏へのインタビューでも、山下氏が、「そういう人たちは科学者ではありません。医師でもなければ放射線の専門家でもない。研究者が研究を積み重ねてきめた国際基準についても何も知りません。皆さんが噂や雑誌や、ツイッターの情報を信じているのを見ると悲しくなります。」 と述べてきたのが、”国際基準”である。
山下氏を批判する市民に対し、「研究者が研究を積み重ねてきめた国際基準についても何も知りません。」と山下氏は切り捨ててきたのである。
では、世界各国で低線量被曝の基準としているICRP(=国際放射線防護委員会)の勧告値は、山下氏が言明するように、本当に「研究者が研究を積み重ねてきめた国際基準」なのだろうか?
●NHK総合テレビ「追跡真相ファイル」
NHK総合テレビは2011年12月28日夜10時55分より30分間の「追跡真相ファイル」において「低線量被曝、揺らぐ国際基準」を放映した。
番組では、現在、世界各国で低線量被曝の基準としているICRP(=国際放射線防護委員会)の勧告値が、米国はじめ主要原発保有国の意図(「政治的な判断」)により、被ばくでガンになるリスクを実際の半分に減らしていた事実が浮かびあがってきたことを明らかにしている。
ICRP(=国際放射線防護委員会)加盟国
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
以下は<低線量被ばく 揺らぐ国際基準 – NHK 追跡!真相ファイル>の番組案内文である。
福島をはじめ、全国の人々が現実に直面している放射能の脅威。国は「直ちに体への影響はない」と繰り返すばかりだ。その拠り所としているのが、ICRP(=国際放射線防護委員会)の勧告。広島・長崎の被爆者の調査データをベースに作られ、事実上の国際的な安全基準となっている。
しかし関係者に取材を進めると、1980年代後半、ICRPが「政治的な判断」で、被ばくでガンになるリスクを実際の半分に減らしていた事実が浮かびあがってきた。
当時ICRPには、原子力産業やそれを監督する各国の政府機関から、強い反発が寄せられていたのだ。
そしていま、世界各地で低線量被ばくの脅威を物語る、新たな報告や研究が相次いでいる。
アメリカでは原発から流れ出た微量の放射性トリチウムが地下水を汚染し、周辺地域でガンが急増。
25年前のチェルノブイリ原発事故で、大量の放射性セシウムが降り注いだスウェーデンでは、ICRP基準を大きく上回るガンのリスクが報告されている。
いま、誰もが不安に感じている「低線量被ばく」による健康被害。国際基準をつくるICRPの知られざる実態を追跡する。
以下に、NHKの番組の核心部分を紹介する。
ただし、以下のトランススクリプトは番組中のナレーションとは異なる部分があります。
・スウェーデンの事例
番組では、スウェーデンと米国における低線量被曝とがんとの関係を現地取材により追跡する。
チェルノブイリ原発事故の影響が1500km離れたスウェーデンのヴェステルボッテン県に。
ここでの年間線量は0.2mSv程度。しかし、事故前に比べ1年あたりのがん発生が34%増加した。外部被曝だけなく、トナカイの肉などを食べることによる内部被曝が増えたためと見られている。
チェルノブイリ原発事故の影響が1500km離れた
スウェーデンのヴェステルボッテン県に。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
トンデル博士は汚染地域に居住する110万人すべてのデータを解析したところ、積算線量が10mSv以下でがんになる人が増えていた。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
積算被曝量が10mSv以下でもがん患者が増加している
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
リスクは外部被曝だけでなく、内部被曝によって左右される。
地域では汚染されたトナカイの肉を食べていた。トナカイ肉の基準値は1kg300ベクレルと日本の以前の基準より低かった。
住民は食べる肉の量も減らし、体への影響を抑えようとしてきた。
なぜガンが増えたのか?マーティン・トンデル博士、汚染地域の住民110万人のデータを解析した。発症者はいずれも内部被曝10mSv以下だったがリスクは内部被曝に左右される。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
・米国イリノイ州の事例
現地調査はさらに米国イリノイ州で3つの原発が立地する地域に及ぶ。ここでは、周囲に3つの原発が集中。原発から流れ出た微量の放射性トリチウムが地下水を汚染し、周辺地域で幼児のガンが急増していた。
シカゴがある米国イリノイ州(IL)には米国で最も多くの原発がある!
出典:Wikipedia
米国イリノイ州の原子力発電所立地
出典:Medill Report
米国イリノイ州、シカゴ郊外、原発立地周辺の子供への影響。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
この地域では約100人の幼児や子供ががんで死んだ。
がんで死んだ幼児、子供100人の名前が石に刻まれている
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
住民を代表して被害を訴えるソウヤーさん親子。娘セーラさん18歳、いまも身長は140cmにしかならない。
セーラさんが脳腫瘍になったのは、この街に引っ越して4年目。井戸の水をまいて遊び、食事をしていた。病気になってからは母親はシカゴから水を取り寄せる。州政府からデータを取り寄せる。過去20年間、住民1200万人がどんな病気にかかったかのデータ。小児科医の夫が分析。
生き残ったセーラちゃんの言葉
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
井戸水を利用していた女の子が脳腫瘍に。州政府から1200万人に及ぶ住民の健康データを入手して解析。原発周辺だけが脳腫瘍・白血病が30%に増えていたと分析。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
さらに原発周辺では、脳腫瘍・白血病などが30%以上増加。小児がんは約2倍に増加していると分析。。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
しかし、米原子力規制委員会(NRC)は、井戸水による被曝は1mSv以下、健康を脅かすことはないとしてきた。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
・カナダのオタワにあるICRP事務局を取材
その上で、話はICRP(=国際放射線防護委員会)の勧告値など、基準値の妥当性、信頼性そして根拠に及ぶ。
2011年10月、ICRPの会議が開催された。ICRPは30カ国、250人のネットワーク。この国際会議は音声のみの取材が許可された。
会議では、「8歳や10歳の子供が、なぜ原発労働者と同じ基準なのか」「ICRPの低線量リスクがこのままでいいのか」など、福島原発事故を受けた問題提起がなされた。
取材班はカナダ・オタワにある本部に行き直接事務局長のクレメント氏に聞く。
ICRP(=国際放射線防護委員会)の科学事務局長
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
カナダのオタワにあるICRPにて、ICRP事務局長のクレメンスは、「問題は低線量」であり、基準値設定に際して、広島と長崎のデータが修正されたことを暴露する。
すなわち、本当は半分の被曝量だった。本当の低線量被曝がもたらすリスクは現在示されている量の2倍だった。にもかかわらず現在も、従来のまま据え置かれている。
本当の低線量被曝がもたらすリスクは現在示されている量の
2倍だったにもかかわらず現在も、従来のまま据え置かれている。
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
修正データが出された時、基準値を見直すべきであったが、当時のICRP委員17人のうち13人が原子力行政や原子力産業の委員であり委員の「配慮」から実際のリスクは据え置かれた。
当時のICRP委員17人のうち13人が原子力行政や原子力産業の委員
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
その配慮とは「リスクを引き上げれば原発など核関連施設の運営に支障が出る」とし「米国の委員は、原発労働者にさらに20%リスクを引き下げる様に求め、ICRPは根拠なく従った」そして「再処理施設の女性達に異変が起こった」と。
「リスクを引き上げれば原発など核関連施設の運営に支障が出る」
とし「米国の委員は、原発労働者にさらに20%リスクを引き下げる様
に求め、ICRPは根拠なく従った」
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
結局、80年代後半、ICRPが「政治的な判断」で、低線量被曝でガンになるリスクを実際の半分に減らしていたことになる。 ICRPはあたかも科学的な根拠であるかのように日本では考えられてきたが、ICRP委員は「政策的さらに政治的な判断」を出しているに過ぎないとのことが明確になった。
しかも、ICRPの予算の大部分は下の写真にあるように、原発保有国の原子力政策や研究開発機関から拠出されている。ちなみに日本原子力研究開発機構は、原発安全神話の本拠地と言ってもよい組織(独立行政法人)であり、除洗事業でも総額の30%ピンハネ問題の中心にある組織である。
ICRP予算への各国機関からの拠出金
出典:NHK「追跡真相ファイル」より
・テネシー州再処理施設の元女性労働者ら
アメリカ・テネシー州。再処理施設で清掃の仕事をしていた女性たちは仕事をやめてしばらくすると、体に異変が起きた。
「乳がん、喉頭がん、顔に皮膚がんを患っています」国に補償を求める訴えを起こしている。
「私たちはモルモットでした。どんなに危険か知らされませんでした」
ICRPの核関連施設用基準について「科学的根拠はなかったがICRPの判断で決めた」「子供や高齢者はいないから」その後、核施設で働いていた女性などが健康被害を訴え「我々はモルモットだった。危険を知らされていたなかった」。
低線量被曝を引き上げると、対策コストが増加する。3億6900万ドルと試算。原発で働く基準、労働者は、さらに20%引き下げた。労働者は子供や高齢者ではないので、科学的根拠はないがICRPで決定。核燃料の再処理施設で働いていた女性、健康被害
●山下俊一氏発言の検証
ここで、再度、山下氏へのドイツ『シュピーゲル』のインタビュー記事に戻ってみよう。
山下:日本政府が年間被曝上限を20mSvに設定したことが、混乱に拍車をかけたと思います。国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力非常事態が起きた際には年間被曝上限を20~100mSvのあいだに設定するよう提言しています。その範囲のどこで線引きをするかは政治的な判断で決まることです。リスクと利益をはかりにかけて考えなくてはいけません。避難するにしてもリスクを伴うからです。放射線防護の観点から見れば、日本政府は最も慎重な方針を選んだのですが、それが皆さんの混乱と不安を高めてしまいました。
上を見ると、山下氏は今回、NHKが暴露したICRPの内部事情を知りつつ、発言していたのではないかと思わせる。
とりわけ、「国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力非常事態が起きた際には年間被曝上限を20~100mSvのあいだに設定するよう提言しています。その範囲のどこで線引きをするかは政治的な判断で決まることです。」の部分である。
問題は、「年間被曝上限を20~100mSvのあいだに設定するよう提言」というよりは、低線量被曝でガンになるリスクを実際の半分に減らしていたことを知りながら上記を言っているかどうかである。
もし、知っていて「放射線防護の観点から見れば、日本政府は最も慎重な方針を選んだのですが、それが皆さんの混乱と不安を高めてしまいました。」 と述べているとすれば、とんでもないこととなる。
山下氏は自分を批判する人たちに対し、「そういう人たちは科学者ではありません。医師でもなければ放射線の専門家でもない。研究者が研究を積み重ねてきめた国際基準についても何も知りません。皆さんが噂や雑誌や、ツイッターの情報を信じているのを見ると悲しくなります。」と言っている。
だが、あらかじめNHKが暴露した事実を知っていたのだとしたら、事実と真実を隠してきたことになる。そうだとしたら、山下氏は科学者や研究者ではない。
そうだとしたら、山下氏は到底、科学者でも医者でもなく、ICRPの委員同様、人命よりも行政当局や関連業界による避難経費などの放射線暴露対策費の削減を重視した「政治判断」をした人物ということに他ならない。
山下氏問題と離れても、いずれにせよ、今回のNHK番組からは、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告している“生涯100ミリシーベルト”、”年間20ミリシーベルト”などの被曝基準は科学的根拠に乏しく、委員の大部分がいわゆる「原子力村」の住民であり、きわめて政治的なものであることが分かる。
・